微笑ましい光景











 今年の6月28日から7月7日まで、中国の蘇州市で開催されたユネスコの第28回世界遺産委員会にオブザーバーとして参加した。
日本の「紀伊山地の霊場と参詣道」など34物件が、新たにユネスコの「世界遺産リスト」に登録され、世界遺産の数は、788物件(134か国)になった。

 なかでも、注目を集めたのが、昨年の世界遺産委員会パリ会議で、「世界遺産リスト」への登録が見送られた北朝鮮の「高句麗古墳群」(平壌市、南浦市に分布)の扱いだった。見送られた理由として、国境を挟んだ中国側からも、近々、古代高句麗王国に関わる物件を「世界遺産リスト」に登録推薦する予定があることなどを背景に、登録範囲の見直し、真正性についての再評価、保全状況の改善などの課題が指摘された。

 今回の世界遺産委員会では、北朝鮮と中国にまたがる高句麗遺跡群として、1物件として共同登録されるのか、或は、それぞれの国の物件として2物件として単独登録されるのか、様々な憶測が飛び交っていた。

 結果的に、北朝鮮の「高句麗古墳群」は、中国側の「古代高句麗王国の首都群と古墳群」(遼寧省桓仁市、吉林省集安市に分布)とは別々に単独登録され、北朝鮮では初めての世界遺産登録となった。

 古代高句麗王国に思いを馳せれば、一連の高句麗文化の遺産として、国境を越えた「高句麗遺跡群」としての共同登録が望ましいが、今では、国が異なること、また、それぞれの国の法律や文化財保護制度も異なることから、それぞれに恒久的な保護管理を行っていくことになった。

 北朝鮮の「高句麗古墳群」の登録可否をめぐる審議では、専門機関であるICOMOS(国際記念物遺跡会議)の評価、それに、日本をはじめとする21か国の委員国からも「賛成」、「強く推薦する」という意見が相次ぎ、反対はなかった。

 何よりも驚いたのは、会議の議長を務めた中国の章新章教育次官が、『北朝鮮の「高句麗古墳群」をユネスコの「世界遺産リスト」に登録する』と決定したその瞬間、大会会場からそれまでにない万雷の拍手が沸き起こったことである。

 北朝鮮が1998年7月21日に世界遺産条約を締約して以来、最初の世界遺産登録物件であること、かねてから、「高句麗古墳群」が世界遺産になることの待望論が強かったこと、それぞれの人の北朝鮮への思いなど多様なものが重なりあった音に聞こえた。

 北朝鮮の代表団(団長 李儀夏 朝鮮文化保存局指導部副部長)も、ユネスコの事務局長補であるムニール・ブシェナキ氏をはじめとする各国要人からの相次ぐ祝福で、当惑されているようにも見えた。なかでも、印象に残ったのは、韓国ユネスコ国内委員会の関係者が、わが事のように喜んでおられた姿である。

 傍観者である私の心にも何か熱いものが込み上げてきて、久しぶりの感動を覚えた。手に手を取って、或は、抱き合って、「朝鮮民族の誇り」を称え合う光景は、周囲にも、大変微笑ましく、羨ましくも思った。

 ユネスコの世界遺産委員会の舞台では、既に、国交は正常化している。この事を契機に、朝鮮半島の南北統一、それに、日本からも北朝鮮の「高句麗古墳群」を難なく観光できる日が一日でも早く来ることを願っている。

 今後の課題は、人類の共通の財産となった「高句麗古墳群」の恒久的な保護管理に対して、どのような国際協力が可能なのかを考えていかなければならないと思う。

























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