Memory of the World
メモリー・オブ・ザ・ワールド

世界の記憶








 ユネスコ(国連教育科学文化機関 本部 パリ)は、1992年に、歴史的な文書、絵画、音楽、映画などの世界の史料遺産(Documentary Heritage)を保存し、利用することによって、世界の史料遺産を保護し、促進することを目的として、メモリー・オブ・ザ・ワールド・プログラム(Memory of the World Programme)を開始した。

 このメモリー・オブ・ザ・ワールド(Memory of the World  略称MOW)のプログラムの目的は、ユネスコ加盟国が自国の記憶遺産についての認識を高め、自国の記憶遺産を保護する上で、国、団体、国民の利益を呼び起こすこと、世界的に、または、国単位で、または、地域的に意義のある記憶遺産の保存を奨励すること、記憶遺産ができるだけ多くの人に利用できるようにすること、コンパクト・ディスク、ウェブサイト、アルバム、本、ポストカードなどの製品を作成し、記憶遺産の概念を促進することなどである。

 このメモリー・オブ・ザ・ワールド・プログラムの事務局は、ユネスコ本部の情報・コミュ二ケーション局知識社会部ユニバーサルアクセス・保存課が担当している。

 世界記憶遺産は、2年毎に開催される国際諮問委員会(略称IAC)で、世界にとって意義のある記憶遺産が選考される。国際諮問委員会は、1997年9月にウズベキスタンのタシケント 、1999年6月にオーストリアのウイ−ン、2001年6月に韓国の慶州 、2003年8月にポーランドのグダニスク、2005年6月に中国の麗江、2007年6月に南アフリカのプレトリア、2009年7月にバルバドスのブリッジタウン、2011年5月に英国のマンチェスター、2013年6月に韓国の光州、2015年10月にアラブ首長国連邦のアブダビの各都市で、開催されてきた。

 メモリー・オブ・ザ・ワールドには、これまでに、中国の「清代歴史文書」、「南京大虐殺の記録」、韓国の「朝鮮王朝実録」、「韓国放送公社(KBS)の特別生放送番組「離散家族を探しています」のアーカイヴス、ポルトガルの「ヴァスコ・ダ・ガマのインドへの最初の航海記1497〜1499年」、「イギリスの「マグナ・カルタ」、フランスの「人権宣言」、スイスの「モントルー・ジャズ・フェスティバル:クロード・ノブスの遺産」、ドイツの「ベートーベンの交響曲第九番の草稿」や「ゲーテの直筆の文学作品」、オランダの「アンネ・フランクの日記」、スウェーデンの「アルフレッド・ノーベル家族の記録文書」、ロシア連邦の「トルストイの個人蔵書、草稿、写真、映像のコレクション」、カナダの「インスリンの発見と世界的なインパクト」、アメリカ合衆国の「エレノア・ルーズベルト文書プロジェクトの常設展」、それに、オランダ、インド、インドネシア、南アフリカ、スリランカの複数国5か国にまたがる「オランダ・東インド会社の記録文書」、オランダ、ブラジル、ガーナ、ガイアナ、オランダ領アンティル、スリナム、英国、アメリカ合衆国の8か国にまたがる「オランダ・西インド会社の記録文書」など348件が「世界記憶遺産リスト」に登録されている。

 世界遺産に関連したものでは、カザフスタンの「コジャ・アフメド・ヤサヴィの写本」、中国の「麗江のナシ族の東巴古籍」、韓国の「海印寺の大蔵経板」、オーストラリアの「オーストラリアの囚人記録集」、ドイツの「ライヒエナウ修道院にある彩飾写本」、スロヴァキアの「バンスカー・シュティアヴニッツアの鉱山地図」などが挙げられる。

 日本からの世界記憶遺産は、2011年5月に、英国のマンチェスターで開催された第10回国際諮問委員会で、「山本作兵衛コレクション」(Sakubei Yamamoto Collection)が、25日、日本初のメモリー・オブ・ザ・ワールド(世界記憶遺産)の登録が内定、 イリナ・ボコバ・ユネスコ事務局長の承認を得て、ユネスコと申請者(福岡県田川市長及び公立大学法人福岡県立大学学長)との間で、登録に関する契約が締結され、世界記憶遺産として正式決定の運びとなった。

 「山本作兵衛コレクション」は、筑豊の炭坑(ヤマ)の文化を見つめた画家、山本作兵衛氏(1892〜1984年 福岡県飯塚市出身)の墨画や水彩画の炭鉱記録画、それに、記録文書などの697点で、福岡県指定有形民俗文化財に指定されており、保管・展示は、福岡県田川市石炭・歴史博物館(627点)と福岡県立大学附属研究所(70点)が行なっている。

 「山本作兵衛コレクション」を登録申請した経緯は、田川市は、当初、「九州・山口の近代化産業遺産群」の構成資産の一つとして、旧三井田川鉱業所伊田竪坑櫓などの世界遺産登録を目指していたが、残念ながら、2009年10月に国内審査で構成資産の候補から外れた。

 しかしながら、関連資料として紹介した山本作兵衛の作品を現地を訪れた海外の専門家が「炭鉱記録画の代表作」と絶賛、高く評価していたことが契機となって、2010年3月末に図録などを添えた登録推薦書類をユネスコに提出したわけである。

 2013年6月1に韓国の光州市で開催された第11回国際諮問委員会では、日本政府の推薦では初めてとなる、仙台藩の日欧交渉を伝える江戸時代の「慶長遣欧使節関係資料」(仙台市博物館所蔵)、それに、平安時代の藤原道長の自筆日記(国内最古)である「御堂関白記」(京都市にある陽明文庫が所蔵)の国宝2件が登録された。

 また、2015年に開催された第12回国際諮問委員会では、国宝の「東寺百合文書」(とうじひゃくごうもんじょ)」(京都府立総合資料館所蔵)、「舞鶴への生還 1945〜1956 シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録」(京都府舞鶴市舞鶴引揚記念館所蔵)の2件が登録された。61か国からの87件のうち47件が登録された。ジンバブエ、ギリシャ、エクアドルからは、初めての世界記憶遺産が誕生した。

 「世界記憶遺産」は、人類の歴史的な文書や記録など忘れ去らてはならない貴重な史料遺産であり、地球上のかけがえのない自然遺産と人類が残した有形の文化遺産である「世界遺産」、人類の創造的な無形文化遺産の傑作である「世界無形文化遺産」と共に失われることなく保護し、恒久的に保存していかなければならない。

 「世界記憶遺産」は、「世界遺産条約」や「無形文化遺産保護条約」の様に多国間条約に基づくものではないが、危機にさらされている文書遺産などの保存は喫緊の課題であることから、世界記憶遺産事業の強化の必要性について、多くの国が賛意を示している。

 2015年11月3〜18日に開催される第38回ユネスコ総会では、現在のメモリー・オブ・ザ・ワールド・プログラムの仕組みやジェネラル・ガイドラインズ(記録遺産保護の為の一般指針)の変更など、記憶遺産登録にあたっての選考の透明性の確保、政治利用などへの国際批判に応じた制度改革、勧告の採択など新たな法規範の設定が必要な状況である。 




                                                      古田陽久










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