特集 高句麗古墳群









 2004年の6月28日から7月7日まで,中国の蘇州市で,ユネスコ(国連教育科学文化機関)の第28回世界遺産委員会(21か国の委員で構成)が開催され,新たに,「高句麗古墳群」など34物件が登録され,ユネスコ世界遺産の数は,788物件(自然遺産 154物件,文化遺産 611物件,複合遺産 23物件)になりました。

 北朝鮮の「高句麗古墳群」については、2003年6月30日から7月5日まで、パリのユネスコ本部で開催された第27回世界遺産委員会で、真正性(オーセンティシティ)についての再評価、保全状況、国境をはさんで、中国側の「高句麗の古代都市や皇族と貴族の古墳群」を含めた登録範囲の見直しなどの課題があって登録が見送りになりましたが、今回、結果的には、2物件として登録されました。

 一連の高句麗文化の遺産として、国境を越えた「高句麗遺跡群」としての登録が望ましいのですが、今では、所在する国が異なること、また、それぞれの国の法律や文化財保護制度も異なることから、それぞれが恒久的な保護管理を行っていくことになったのだと思います。二国にまたがる世界遺産の事例は幾つもありますが、自然遺産と文化遺産、或は、ヨーロッパとアジアでは、その考え方も異なり、一元管理のあり方が理想通りにはならない現実があります。

 高句麗文化は、古代日本の歴史、生活、文化にも多大な影響を与え、私たち日本人にとってもゆかりの深いかけがえのないものです。本稿では、高句麗古墳群を世界遺産の視点から特集してみたいと思います。



 中国側の登録遺産

 登録物件名 Capital Cities and Tombs of the Ancient Koguryo Kingdom(古代高句麗王国の首都群と古墳群)
 遺産種別 文化遺産
 登録基準 
 (@) 人類の創造的天才の傑作を表現するもの。       
 (A) ある期間を通じて、または、ある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、町並み計画、景観デザインの発展に関し、
    人類の価値の重要な交流を示すもの。       
 (B) 現存する、または、消滅した文化的伝統、または、文明の、唯一の、または、少なくとも 稀な証拠となるもの。       
 (C) 人類の歴史上重要な時代を例証する、ある形式の建造物、建築物群、技術の集積、または、 景観の顕著な例。             
 (D) 特に、回復困難な変化の影響下で損傷されやすい状態にある場合における、ある文化 (または、複数の文化)を代表する
    伝統的集落、または、土地利用の顕著な例。

 登録年月 2004年7月(第28回世界遺産委員会蘇州会議) 
 登録遺産の面積 コア・ゾーン 4164.86ha、バッファー・ゾーン 14142.44ha

 登録物件の概要
 古代高句麗王国の首都群と古墳群は、中国の東北地方、渾江流域の遼寧省桓仁市と鴨緑江流域の吉林省集安市に分布する。高句麗は紀元前3世紀頃に、騎馬民族の扶余族の一集団が北方から遼寧省桓仁市付近に移住し、高句麗最初の山城を、五女山上に築いて都城としたのが始まりといわれている。古代高句麗王国の首都群と古墳群は、高句麗初期の山城である五女山城(桓仁市)、平地城である国内城(集安市)、山城である丸都山城(集安市)の3つの都市遺跡と高句麗中・後期の14基の皇族古墳と26基の貴族古墳からなる40基の陵墓群(集安市)が含まれる。陵墓群は、有名な好太王(広開土王)碑、将軍塚、大王陵があり、また、舞踊塚、角抵塚、散蓮花塚、三室塚、通溝四神塚などの壁画古墳からなる。陵墓群の中には、優れた設計技術を示すものもあり、その構造や壁画などは人類の創造性を示すものである。

 分類 首都遺跡群、古墳群
 年代区分  紀元前3世紀〜紀元後7世紀
 物件所在国 中華人民共和国(People's Republic of China)   
          首都  北京(人口 1,217万人)  言語  中国語 宗教  仏教、道教、イスラム教
 物件所在地 遼寧省桓仁市、吉林省集安市

 活用 五女山城資料館 
 世界遺産への脅威 開発、洪水、地震



 北朝鮮側の登録遺産

 登録物件名 Complex of Koguryo Tombs(高句麗古墳群)
 遺産種別  文化遺産
 登録基準 
 (@) 人類の創造的天才の傑作を表現するもの。       
 (A) ある期間を通じて、または、ある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、町並み計画、  
    景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。       
 (B) 現存する、または、消滅した文化的伝統、または、文明の、唯一の、または、少なくとも 稀な証拠となるもの。       
 (C) 人類の歴史上重要な時代を例証する、ある形式の建造物、建築物群、技術の集積、または、 景観の顕著な例。

 登録年月 2004年7月(第28回世界遺産委員会蘇州会議) 
 登録遺産の面積 コア・ゾーン 232.95ha、バッファー・ゾーン 1,701.2ha

 登録物件の概要
 高句麗古墳群は、平壌市、南浦市、平安南道、黄海南道に広く分布する。高句麗王国末期の江西三墓、徳興里壁画古墳、水山里古墳、安岳1号墳、安岳3号墳など古墳63基が含まれる。このうち16基の古墳は、石室の天井に極彩色の星宿(星座)図や「白虎」などの四神図などの美しい壁画が描かれており、高句麗時代の代表的な傑作といえる。また、古墳の構造は、当時の巧みな土木技術を証明するものでもある。高句麗文化の優れた埋葬習慣は、日本を含む他地域の文化にも大きな影響を与えた。

 分類 古墳群
 年代区分 紀元前3世紀〜紀元後7世紀
 物件所在国 朝鮮民主主義人民共和国(Democratic People's Republic of Korea) 
         首都 平壤(人口 260万人) 言語  朝鮮語 宗教 仏教,キリスト教(いずれも少数)
 物件所在地 平壌市(力浦区、三石区、大城区)、南浦市、平安南道、黄海南道安岳郡

 管理 文化財保護管理局(MBCPC)
 世界遺産への脅威 劣化、警報システムの欠如、2つの墓は村の中にありバッファー・ゾーンがない、洪水、観光



                                                                         (古田陽久)











参考文献
世界遺産データ・ブック −2005年版−
世界遺産ガイド −特集 第28回世界遺産委員会蘇州会議−
世界遺産ガイド −北東アジア編−
世界遺産マップス −地図で見るユネスコの世界遺産−2005改訂版















 
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