ユネスコ世界遺産と土木遺産




>  昨年の11月29日から12月4日まで,モロッコのマラケシュで,ユネスコ(国連教育科学文化機関)の第23回世界遺産委員会が開催され,新たに,わが国の「日光の社寺」など48物件が世界遺産リストに登録され,ユネスコ世界遺産の総数は,630物件 (自然遺産 128物件,文化遺産 480物件,複合遺産 22物件)になった。

>  地球と人類が残した偉大な自然環境や文化財など文明の証明ともいえるユネスコ世界遺産は,世界遺産条約締約国(158か国)から推薦され,その後,ICOMOS(国際記念物遺跡会議)やIUCN(国際自然保護連合)などの関係機関,また,世界遺産委員会 (21か国)の代表7か国で構成されるビューロー会議で審査され,最終的に,毎年11〜12月頃に開催される世界遺産委員会で,登録の可否が決まる。

>  世界遺産の考え方が生まれたのは,ナイル川のアスワン・ハイ・ダムの建設計画で,1959年に水没の危機にさらされたアブ・シンベル神殿などのヌビア遺跡群の救済 問題。この時,ユネスコが遺跡の保護を世界中に呼びかけ,多くの国々の協力で移築 したことが契機となった。

>  ユネスコ世界遺産の数は,毎年,数が増えていくと共に多様化している。土木遺産 関係については,ローマ時代に造られた「セゴビアの水道橋」(スペイン),「ポン・デュ・ガール」(フランス),世界最初の鉄橋が架かる「アイアンブリッジ峡谷」> (イギリス),近代土木の輝かしい業績を残すルイ14世時代の「ミディ運河」(フラ ンス),19世紀のヨーロッパの水力利用技術の発展を示す「ルヴィエールとルルー (エノー州)にあるサントル運河の閘門と周辺環境」(ベルギー),ポルダーの先駆けともいえる「ドローフマカライ・デ・ベームステル(ビームスター干拓地)」,堤防,運河,水門などで構成され水害対策も兼ねた世界唯一の軍事要塞「アムステルダムのディフェンス・ライン」(オランダ),それに,ヨーロッパ鉄道建設史にも残るアルプス山岳鉄道の「センメリング鉄道」(オーストリア),トイ・トレ インが走る「ダージリン・ヒマラヤ鉄道」(インド)などが,文化遺産として登録されている。

>  ユネスコ世界遺産に登録される為には,第一に,世界的に顕著な普遍的価値 (Outstanding Universal Value)を有することが前提になる。第二に,世界遺産委員会が定める世界遺産の登録基準の一つ以上を満たしている必要がある。<文化遺産> の6つの登録基準(Culutural Criteria)の中で,上記の物件に共通する点は, (W)「人類の歴史上重要な時代を例証する,ある形式の建造物,建築物群,技術の集積, または,景観の顕著な例」という基準(criterion)。第三には,世界遺産としての価値を将来にわたって継承していく為の保護・管理措置が講じられている必要がある。

>  世界遺産条約の本旨は,かけがえのない地球,そして,先人達が築いてきた人類の偉大な遺産を,自国の遺産としてだけではなく,国家を超えて保護・保存し,未来へ継承していくことにあり,開発と保全のあり方についても議論が尽きない。 

>  日本にあるユネスコ世界遺産は,現在,白神山地,屋久島の自然遺産が2物件。日光の社寺,白川郷・五箇山の合掌造り集落,古都京都の文化財,古都奈良の文化財,法隆寺地域の仏教建築物,姫路城,原爆ドーム,厳島神社の8物件の合計10物件。

>  日本の文化遺産については,木の文化が造り上げた宗教建築物や城郭がほとんどで> あるが,今後,ユニークな文化財の登録も期待されている。なかでも,着目したいの が,日本の近代化や産業の発展にも大きな貢献をした土木遺産。現在,日本各地で, 内外に誇れる郷土の遺産をユネスコ世界遺産にしようする運動が活発になりつつあ り,土木遺産にも新たな光があたることが期待される。

By Haruhisa Furuta (C)





(参考文献)シンクタンクせとうち総合研究機構 発行
>       「世界遺産事典 −関連用語と情報源− 改訂版」
>       「世界遺産フォトス −写真でユネスコの世界遺産」
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土木学会誌(Vol.85,June 2000)


























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